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個展『ムーンパイロット』開催レポート(後編)

さて、今回の個展では2つの目玉がありました。
その1つが、作品という演出で提供した『月読みプリン』です。

それはカフェ時代に提供していた「月見プリン」を使い、その表面に現れた凹凸や陰影の月景色から、食べる方へプリンの“ことば”を読み取ってお伝えするというもの。

その昔、中国では亀の甲羅を火にくべて、熱で亀裂が入ったそのひび割れの様から今の世界のあり方をそこに縮図として見立て、皇帝らが国を治める判断に使っていた「亀甲占い」というものがありました。蒸し焼きして作る「月見プリン」の表に現れる一つとして同じものはないその模様から“ことば”を読むのは、まるで「亀甲占い」のようなものだなと思っています。

そして、ことばとして「読む」ことと、日本神話の月の神様が「月読の尊(つくよみのみこと)」というところにも重なり、『月読みプリン』というぴったりな作品名が名づけられました。

食べるというのは見るという行為よりも、対象に働きかけていることが分かりやすい行為だと思います。
わたしは絵画鑑賞というものは受動的な行為ではなく、見ることで絵とかかわることができ、極端に言えば作品を変化させることもできるものだと思うのですが、なかなかそれを自覚して見るのがまだまだ一般的ではないように思います。
そんな中で、観賞出来て、その月景色の意味するものをお伝えでき、かつそれを最終的に食べるということで作品を変化させてしまえる体験をお客さんに提供できたのは、とても楽しくスリリングなアート展示の試みでした。

そしてもう1つが、その名も『ムーンパイロット』と名付けた、月の映像とライブペイントを合わせたパフォーマンスイベントです。

漫画『ムーンパイロット』のコマがスクリーンに映されていった…
自作の漫画の朗読もありました
最後は、ライブペイントで完成した作品をお披露目しながら、感想や絵の物語を語りました

このイベントは、個展開始2日目の夜に、月をテーマに活動をしている友人のカメラマン河戸浩一郎さんと行ったコラボレーション企画でした。

カフェをしていたとき、年に一度河戸さんと、月をテーマに実験的な上映会を行なっていました。
毎年趣向を変えて行っていたその上映会では、映像との即興劇をしたり、詩の朗読をしたり、観客のみなさんに楽器を持っていただき即興演奏で参加してもらったりと、様々な表現を試みてきました。

今回は、個展そのもののタイトルにもなっている、わたしが20歳ころに描いた『ムーンパイロット』という漫画を下敷きとした上映劇を開催。
イベント案内には次のようなことばを寄せました。

~~~~~~~~~~
月を想うことから立ち現れてくる
それぞれの人にとっての大切なとき。

こころの海底に沈んでいる
大切な何かが孵(かえ)るとき。

内側を見つめるような
そんな月見時間を
今年も下記の暦で行います。
~~~~~~~~~~

24年も前に描いた自作の漫画が、まさに時を経て卵が孵ったような感覚になり、イベントはこの個展を象徴するようなものとなりました。

図らずもわたし自身がその漫画を描いたことでタイムカプセルを作っていたのだと思います。
それを四半世紀ののち、リメイクするようにして再表現したとき、当時の心境や環境をも合わせて思い出され、欠けていた自分のパーツが埋め合わされたような体験となったのです。

そして、その過程をパフォーマンスとして披露したことが、言葉が妥当か分かりませんが「セラピー」を受けたようなものだったなぁと考えています。
この個展が自分にとってセラピーとして作用したということは、もう少し時間が経って体験が発酵し、言葉が生成されてきたときに出来たらぜひしたいと思います。

ひとまずは、個展『ムーンパイロット』開催レポートはここまでといたします。
個展に出展した作品や、当日販売したポストカードはオンラインショップでご鑑賞、ご購入いただけますのでふらっと立ち寄って頂けたら幸いです。

最後に、あらためて個展に足をお運びいただいた皆さま、ありがとうございました。
またお心を寄せて下さった皆さまにも、お礼申し上げます。


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