閉店のご挨拶にかえて、店主からあなたにショートストーリーをお届けいたします。
cafe「月見かえる」は2019年11月30日まで営業し、そこから新しい形にシフトします。
今後については、ショートストーリーの後にまとめましたので、合わせてご覧ください。

「おかえるなさい」
お店の扉を開けると、そう声をかけてくれるのがこのカフェの習いだった。
「ただいま~」
自然と私からこの言葉が口をつく。
緑色の皮膚をした店員がすっとやってきて、庭のそばのテーブルに案内してくれ、私の脱いだ人間スーツを丁寧に受け取り、さりげなく繊維を整え衣紋掛けにかけてくれる。
私はその光景を目の片隅に入れながらゆっくりと腰を下ろし、庭の雨に目を凝らして、しっとりとした空気を全身の皮膚で味わった。
 
「月見かえるブレンド、おまちどうさまでした。」
そう言ってテーブルに置かれたカップを手に取り一口。ホッ…。
そのままぼーっとした意識で、カップの中のコーヒーの水面に視線を落としていると月がどこからか映り込んでいるのが目に入ってきた。
「あぁそうか、見えていようが見えていまいが、いつもキミ()に見守られていたんだなぁ。」

まるでコーヒーの黒い水面がスクリーンにでもなったかのように、そこに映った月の映像は動き出し、早回しのようにどんどん丸くなっていった。
「はぁ、なんだかすっかり忘れていたなぁ…。そうだよね、欠けているように見えるだけ。本体はずっとまあるい玉なんだよね。そして私もまたキミと同じく本体は欠けることのない存在だったなぁと。キミを見ていたらそのことを思い出したよ…。」
 
店内のラジオから宙(そら)予報が聞こえてくる。
「それでは次に、本日の太陽系第 4惑星、地球の地表面予報です。
同方向に太陽と月が位置し、星の片側への引力が強まります。
地軸の傾きとプレートの沈み込みをかんがみまして、
太平洋の北西に位置する4つのプレートがひしめき合っている龍形の島では
多くの電磁気の放電が予想されます。
地表面への水素の大量放出により、大気内での H2O発生量が局所的に上昇し、
ゲリラ豪雨も各地で発生が予想されています。
また、ほころびの多い人間スーツを着用の皆さんは、
この時期多くの電磁気や放射線が飛び交いますので、
スーツのメンテナンスにはくれぐれもご配慮ください。」
 
ラジオの言葉が私の耳に入ると、頭というドーム型のスクリーンに、コーヒーカップをのぞき込む私をさらにキミが宙(そら)からのぞき込んでいる俯瞰図が浮かんだ。
独り言のように言葉がこぼれた。
「キミから見れば私はまさに、井の中の蛙だね ()
雨降る庭に太陽光がスポットライトのように差していた。
その光に誘われるように、用意されてあるサンダルを借りて庭に出て、空を仰ぎ見た。
光が空気中の水を通過しつつ乱反射し、その全体の景色はまるで水面を下から眺めるかのようだった。
 
その光景に感覚を開きながら時を忘れて立っていた。どれくらいの時間が経ったのだろう、テーブルに戻ると、緑色の皮膚をした店員がやってきて、「私が書いた詩集です。よろしかったらご覧になりませんか。」
そう言って紺色の、布張りがされた手作りの冊子を置いて行った。
頁を繰った。
 
 
水中の流れや 泳ぐ魚たちの動きが
水底の石ころの動きに影響するように
宇宙線やその下の大気圏の気流、

そしてさまよう生き物の想いが
人の意志ココロを揺すって
それぞれの人のトンガリを削り
まあるくする。
 
川底の石が歳月を重ね
どんどんと丸くなるように、
大気圏の底の地上の人々も
意志のぶつかり合いを重ねながら
魂(たま)に近づいて
より光を増していくかのようだ。
 
天の川の流れを 川底である地上から見上げつつ、
この地上にいるわたしに触れる気流を
五感を動員して 味わい尽くす。
 
そう この生きて動いている星の表面で
マントルに浮かぶプレートをサーフボードに
波乗りを おぼえていこう。
 
 
耳から入ってくる詩の響きに気持ちを傾けながらコーヒーの水面を見つめていると、
コーヒーカップのスクリーンは次に、海に沈む月が深く深海へ進みながら緑色の生き物に姿を変えていく様子を映し出した。
その生き物は竜宮の乙姫のように、鯛やヒラメ、もとい古代の生き物たちと舞っていた。
「キミは月から生まれかわって地球の奥深くに引っ越しをした。だから水に触れると懐かしく、元の気に戻れるんだ。」
私もなんだか詩集に影響されて、映像から湧いてきた言葉を詠っていた。
 

       *
 
レジに立った私に気づいた店員が、店の奥の森に出て行き、しばらくしてから手にスーツを持って戻ってきた。

それを私に丁寧に返しながら、

「お預かりした人間スーツ、だいぶ使い込まれておりました。特に頭部がほつれておりましたので、繕っておきました。全体は、月仕立ての水で仕立て直しさせていただきました。」
と言った。
私はスーツの袖にスッと前足を通しながら、店員の前で瞬く間に人間となった。
「お!気持ちいい。すっかりフィットするようになりました。ありがとうございます。
波乗り、ならぬ地球乗り、いってきます。」
「はい、いってらっしゃいませ。ここももうじき、月の水に溶けていきます。お店で提供させていただいていた人間スーツの仕立て直しも、世界全体に月の水が広がっていくのでどこにいても整えることができることでしょう。もしかするとスーツそのものを着ることもなくなっていくかも知れません。私どもも今後は、水や空気や雲のウェイブに乗って、あちこちに出向いていこうと思っております。またそちらでお会いしましょう。」
 
どこにいても仕立てられるし、着なくてもいい
この言葉に頼もしさを感じつつ、私はうねる地上へとダイブした。


\6年間ありがとうございました!/

 

店舗としての6年が長いのか短いのか分かりませんが、店主としては十分な時間でした。
お店を利用して下さっているお客様、遠くからも気にかけて下さるお客様、閉店の勝手をどうかお許しください。

 
店主である私は元々介護現場で働き、
けれど
「介護って詰まるところ職業なの?」
という違和感を感じたのが
勤めてから3年ほどの時でした。
それからも付かず離れずで
介護現場に15年間関わりながら、
一方の手のひらで、
その時々に得たアイデアの種を
学びや語らいで育てていき、
もう一方の手で
最初の違和感の変化を感じていました。
たまたま
ご縁があった檜原という土地で
コミュニティカフェの学びの
実験・実践の場として
民家Cafe月見かえる を立ち上げ、
来月4日でまる6年を迎えます。
おかげさまで当初目指していた
「カフェを通したコミュニティ作り」
は十分経験、実践することが叶いました。
もうひとつ目的としていたのが
「暮らしと商いの場所をミックスする」ということで、
こちらはUターンでなくIターンの移住
かつ都心との2拠点に近い生活スタイルを維持していた店主にとっては、
飲食の商いを通じて
その家に暮らす土台整備と、
また地域の方々へは
店舗だから住まいを開きやすく
知ってもらいやすい面としての
作用がありました。
 
  *
 
畳をあげて床板を切って、
その下の土に炭や灰を敷き、
クリスタルなどの石を置き、
いるだけでリラックスして
お過ごしいただけるよう
物理的な工夫もしました。
またお店というよりも
田舎のおばあちゃん家にあがってる、
みたいに感じられるように、
後半はだんだんと
家のままの雰囲気を意図しました。
それらは
住む者やお客様がこぼした感想が、
カフェという箱庭の砂を動かし
丘や海を作ったり
家や人のフィギュアを置きながら
場が育っていったんだと思います。

カフェづくり、店づくりを通して
みんなの家づくりという
実験をしていたのかも、
今はそう思うに至りました。
家とは本来
そういうものなのかもしれませんが、
こうした歩みが
家とは?家族とは?暮らしとは?
老いとは?死とは?
そんな想いで頭でっかちだった店主に
少しずつ地に足をつけさせて、
かつ自信を持たせてくれました。
6年目の今年、ワークショップや
パーティーへ出ていき、
多くの人々に食事を通して場を
提供できるようになったのも
そのおかげだと感じています。
 
  *
 
こどもの頃から今でもずっと
絵を描くことを含め
創作に関する事に興味があり、
それに関係するセラピー等の資格を
こつこつ取得もしました。
「カフェ」に来ることで
まるで箱庭を作っているような
癒しの時間が作れないだろうか。
そんなアイデアもセラピーの学びや
利用者の自宅へお邪魔していって
ケアをするヘルパーという仕事を
通して得ることが出来ました。
その上で
「癒える家としてのカフェ」
というコンセプトを持ちながら、
肉体的な癒やしと関係性の癒やしを
カフェという箱でどんな風に
出来るだろうかと楽しみながら
やってきました。
こうしたカフェ運営での様々な経験が出来たのも、ひとえにお客様や地域の方々、そしてオープン前の壁塗りの頃からこれまで、様々な形で支えて下さったすべての皆様のおかげです。
心より御礼申し上げます。
この経験を、
創作活動という全体へ還元して
次の扉を開けることに決めました。
今後は「Cafe」を外した屋号、
「月見かえる」という器・乗り物で、
創作活動をする人としていたいと
決めました。
Cafe月見かえるは
11月いっぱいで
ひとまず終了いたします。
今までCafe月見かえるを
応援して下さった方々、
本当にありがとうございます。
檜原村の店舗はなくなりますが、
またいつかどこかのタイミングで、
カフェという創作物が産まれるかも
しれません。
そのときはまた、よろしくお願いいたします。
 

2019年9月30日
cafe月見かえる 
店主  桜庭昌芳

 
 


11月30日閉店までの「cafe」月見かえる

土日予約営業。
前日までに[ホームページのお問い合わせ・フェイスブックのコメント・スタッフへ直接メッセージ]のいずれかでお問い合わせ下さい。
*10月14日と11月4日の(月・祝)も予約営業致します。
*営業最終日の11月30日(土)は、貸切りにて「月の上映会イベント」を予定しています。詳細については近日中にFacebookページ等でご案内致します。
 


 

12月以降の月見かえる

新サイトを整えています。
そちらで主に、
 
*絵の販売
*小説の配信
 
等をしていきたいと思っています。
これまでcafe月見かえるに足を運んでいただいた皆さま、宜しかったら引き続き「cafe」の取れた月見かえるへも興味、関心をお寄せいただけるとたいへん嬉しく思います。
下のメールフォームにご連絡先アドレスやメッセージなどを頂けましたら、新しいサイトが整った際、ご案内させていただきたいと思います。