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連載小説、カフェレシピ、
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疲れたの?憑かれたの?

彼女は仕事から帰ってきて
体の節々が痛むと言った
僕は彼女の職業をよく承知していたので
しばらく部屋を別々にして過ごそうと提案した
彼女は僕の早々の提案に微笑を浮かべながら
そうね、あなたにもパラサイトしちゃ悪いわねと言った
でもね、これはたぶんウイルスよりも
もっと微細なものだから、
空間的なディスタンスはあまり意味がないと思う
そう付け加えた

彼女の空気繭には珍しく
色んなものがパラサイトしているようだった
いつもよりも彼女がクリアに見えないことで
僕にもそれが感じ取れた

このタイプの事柄は音叉と同じ要領だから
離れていても響きあえちゃう
だから共鳴しないようあなたは
自分の楽しいことに気持ちを向け続けてね
そんなふうに彼女は言った

隣同士にいても
お互い別々の世界を生きろって言うのかい
僕はややムッとしてそう言葉を投げつけた
それでも彼女はそんな言葉は承知のように
そもそもみんな自分の延長にしか
世界は現れないのよみんなその自分の世界を生きているのよ
だからあなたの楽しい世界に私を位置づけて
それが私の救いになるから
そう言って大きくひとつ深呼吸をした

それとね、この地球の表面上にいるかぎり
私は誰かが吐いた息を吸うし
私が吐いた息はあなたや他の誰かが吸うのよ
それが自分にとって気持ちの悪いことだとしても
自分の中から出てきたものを
もう一度自分で吸うよう突きつけられるのに比べたら
どんだけ救いがあることかしら

そんなふうにして
都市生活者の同居家族の
ヘンテコなディスタンス生活を
体験せずに済んだのだった

その後に熱が出た彼女の看病をしながら
濃厚接触者として行動制限を課されもしない
僕の詩人という職業について
その社会的な不在性や透明性について
頭の中でひと巡り想いを馳せた
究極のエッセンシャルワーカーとは
透明人間のようなこの僕ではなかろうか
空気や水のように求められるこのような人々は
社会的に透明であるように求められ
その在り方に詩人性とでもいったものが
帯びてくるのではないだろうか

こびと19号はもう誰の中にも存在するわ
色んな物質と共にこの体は今ここにあるの
熱が出る条件にはなっても
それが原因というのはちょっと違うと思う
空気中のチリに水蒸気がつかまって
水滴となり雨粒として降る雨の原因を
チリが雨を引き起こしたとは見ないでしょ
熱を出したい体にたまたま
抗体反応を起こさせる物質がいたということ

今回なぜ私の体が熱を出させたがっているか
こんなふうに感じ取っている
たまたまこの国の夏は
お盆と終戦日があって
あちらとこちらをつなぐ場が大きくなる
ご縁のある想いが山から里帰りしてきたり
その辺の煉獄に留まっていたりする
墓も提灯も送り火も何もかもが
機能しなくなったその代わりに
電子機器の微細な電磁場が機能を果たし
依代となって私の体に帰ってくる
体としてはオーバーヒートよね
こびと19号くんも
もしかしたら依代をやってるのかもしれないね

さすが新型、ニュータイプ
テレパシーを常用し
物質を意図で動かす宇宙の子どもたち
逆に意図を汲んで自らの身を通して
その振る舞いを素直に演じることだろう

さぞかし綺麗に演じることだろう

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